餅。それは日本人の魂。お正月の主役にして、普段は冷蔵庫の片隅で静かに出番を待つ、白き四角の侍。その餅を、私はトースターで焼く。なぜか?それは、電子レンジでは味わえないパリパリ食感が生まれるからだ。
だが、油断してはいけない。トースターで焼く餅は、まるで忍者のように、静かに、そして確実に、あなたの油断を突いてくる。
焼き始めは、正直、退屈だ。
「お、まだ白いな」
「うーん、ちょっと膨らんできた?」
そんな感じで、スマホをいじったり、テレビをチラ見したり、コーヒーを淹れたり。餅はただ、じっとしている。まるで「俺はまだ本気出してないだけ」と言わんばかりの、静かな佇まい。
だが、ここで気を抜くと、人生最大の後悔がやってくる。
ラスト30秒。
そう、あいつらは、ここで豹変するのだ。
「バフッ!」
「ボフッ!」
突然、餅が膨らみ始める。トースターの中で、白い餅がふくらし粉でも入ってるんじゃないかという勢いで、ムクムクと膨張する。さっきまでの大人しさはどこへやら。まるで「今だ!俺のターン!」と叫びながら、トースターの天井に頭突きをかます勢いだ。
そして、ここからが本番。
「いい感じに膨らんできたな~」なんて余裕をかましていたその瞬間、
天井に近づいた餅の上部が、ジリジリ…いや、パチパチ…いや、もうバチバチッと音を立てて焦げ始める。
「あっ、ヤバい!」
このときの焦りといったら、まるで人生初の告白の直前レベル。
トースターの窓越しに、餅の上がみるみるうちにコゲ茶色に染まっていく。
「ちょっと待って!まだ心の準備が…!」
と叫びたくなるが、餅は待ってくれない。
あの白くて純粋だった餅が、まるで反抗期の中学生のように、突然ブラックな一面を見せてくる。
ここで慌ててトースターを開けると、熱風とともに、餅の香ばしい匂いが鼻を突く。だが、油断していると、餅がトースターの網にベッタリとくっつき、剥がれない悲劇が待っている。最悪の場合、餅がトースターの奥に転落し、あなたはフォーク片手にレスキュー隊となる羽目に。
餅焼きの極意は、「最後の30秒を見逃すな」。
人生も同じだ。最後の一瞬で、何かが大きく変わることがある。餅も、ラスト30秒でその真価を発揮する。だから、トースターの前で仁王立ちし、餅の変化を見守るのだ。
「お前、そろそろか?」
「まだか?まだなのか?」
そんな心の声を餅にぶつけながら、焼き上がる瞬間を見届ける。
そして、完璧に焼けた餅をトースターから救出したときの達成感。
それは、ちょっとした人生の勝利体験だ。
餅を焼く。それは、油断と緊張のせめぎ合い。
今日も私は、トースターの前で餅とにらめっこをする。
ラスト30秒、あいつらの本気と、突然の「上だけコゲ」に、あなたは耐えられるか?